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トロット

小説を書いています。BL、NL、ファンタジー系が多いです。少しずつアップしていけたらなと思っています。
2024
05,04

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2018
06,28
ユイは裏道を歩く。

 裏には仕事をしている人間が多く、表はそれを楽しみに来ている人間が多い。ユイは、仕事をしているし、表を歩く人間は、ユイのような存在を虫けらのように扱う人間も沢山いるからだ。

 いつものことだが、少し離れたところから怒号が聞こえた。何人もの怒鳴り声と、獲物だろうか。泣き叫ぶ声、肉を打つ音が聞こえる。

 リンチか――? 

 暴力は好きじゃない、というか嫌だ――。裏の世界に慣れたといっても、痛そうな声を聞けばゾワリと背中があわ立つし、殴ったり蹴られたりという音には身が竦む。

 それはユイが女だからだろうか?

 答えは出ないが、近寄らないようにしようと道を曲がる。

「えっ?」

 ドンとなにかにぶつかってユイは立ち止まった。裏道の狭いところから広いところへ合流する辻だった。

 失敗した――。

 離れたつもりが、近寄ってしまったらしい。

 ユイは、自分の運の悪さに頭がクラクラした。

「……ユ、ユイ・サルドル……」

 そこには昼間見たメイヤー先生ことボロ雑巾が、下からユイを見上げていた。その顔は既に青か赤かわからないくらいアザだらけで、昼間の清潔感が服をきているといった印象は全くなかった。服もあちこち破れて、泥と血液にまみれていた。

「メイヤー先生……」

 呆然とユイが呟くと、メイヤーはユイの足にしがみついた。

「わ、私は……」

 何かを言いかけて、無駄だと悟ったのか、大人の顔を脱ぎすてて、ユイにすらすがるような瞳を向けてきた。後ろから追いかけてきた男達は、ユイをみて、一瞬立ち止まった。

「面倒くさい……」

 ユイの呟きが、メイヤーの羞恥心をえぐったのか、立ち上がって逃げようとする。だが、ユイをみて立ち止まった男達も逃がす気はなかったのだろう、メイヤーを引きずり倒した。

 メイヤーは、先程は何事かを叫んでいたはずだが、ユイを見てからはみっともなく泣き叫ぶことはなかった。

 この人、プライド高そうだもんな。

 ユイは、学校でのメイヤーを思い浮かべた。

「ユイ、お前知り合いか――?」

 男の一人がそう聞いてくる。

「学校の先生――」

 教官室でいってあげたのに。夜のグルハ橋は危険だと、教えてあげたのに、無駄だったなと一人で呟く。

「そうか。見なかったことにしとけ。そいつは、うちの男娼を二人つぶしたんだ。一人目のときに、注意したんだぜ。薬を勝手に持ち込むなと」

 男の目が剣呑に光る。そういえば、この男は男の娼館の支配人だったっけと、思い出す。

 ユイは、迷った。正直好きな先生というわけではないし、薬で潰したということは、下手したら相手は死んでいる。そんな人間を助けることが、果たしてユイにとっていいことになるのかと、計算する。

 迷いながら、声を出そうとした瞬間に、不釣合いに暢気な声がユイを捕らえた。

「ユーイ。こんなところで何してるんだ?」

 ここにいる男達の中で一番背が高く、顔が良く、良い物を着ていて、危険な男。それが、声を掛けてきたオスカー・クラウス・クーゲルだった。

 間近に寄るまで気配なんてなかったのに、その男は気がついたらユイの後ろにいた。後ろにひかえている男達も確実にこのあたりの雰囲気を変えた。

 裏の世界に住むものでなくても、ここが危険な場所になったことは空気で分かるだろう。

「オスカー……」

 ユイは呆然とその男を見上げる。

 これは、もう運命としか言えないな……とユイは諦める。

 先生は、ユイに会う。

 ほっとけば死ぬだろう。

 支配人は言った「見なかったことにしとけ」と。それは、父を捜し求めるユイには禁句だった。見なかったことにされているから、父は見つからないのではないか。自身も見なかったことにされかけたことも何度もある。

 そして、ここにオスカー・クラウス・クーゲルが通りかかって、ユイに声を掛けた。

 ユイには、面倒くさくてたまらないが、先生は運命に勝ったのだ――。

 ただし、命だけ――。

 ユイは、ここから自分がどうすればいいか考える。

 運命は、決して甘くはない。そして、ユイはそれを知っていた――。

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