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トロット

小説を書いています。BL、NL、ファンタジー系が多いです。少しずつアップしていけたらなと思っています。
2024
05,04

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2018
06,12

 ユイはクルクルとじゃがいもを回す。
 一回転、二回転、三回転、半! それでじゃがいもは皮をはがされて、黄色いそのつやつやの姿を現す。

「綺麗だ……」

 ユイのナイフ捌きは、この年にしてはなかなかのものだ。刀身二十五センチはあるこのナイフは父にもらったもので、野菜や肉といった食材に振るわれることになった。

「ユイ! ほら、うっとりしないで、さっさと出前にいってこい。じゃがいもは湯にかけていけよ」

 奥からごつい親父が(父親ではない)ユイの幸せな一時を邪魔するが、それは仕方ないことだ。この店は、王都の下町にある食堂『真夜中のシチュー』という。夜だけ開いていて、出前も多くこなす。ユイはそこで、掃除、下ごしらえ、出前を担当している。

 まだ十四歳のユイだが、食堂で働き始めて五年になる。


 ある日、唯一の肉親であった父親が仕事から帰ってこなかったのだ。それまで、普通に街にある学校に通い、普通に夜眠る生活をしていたが、それはあっさり失われてしまった。

 食堂を営んでいたガムルが、気付いて、助けてくれなければ、きっと死んでしまっていただろう。

 ユイはその日から、食堂で仕事をして、軽く眠り、学校に行き、また仕事をするという生活になった。

 誰にも文句は言えない。自分で選んだことだ。家はガムルに売ってもらい学費にしてもらっている。


「ユイ、またそんなところで眠っているのか」

 昼ごはんを食べた後、学校の庭にある木の上でユイは眠っていた。ご飯を食べたあとに眠るこの気持ちのよさはなにものにもかえられられないものだ。

「あー? もう時間?」

 木の下から声をかけたのは、同じクラスの委員長だ。

「仕事など止めてしまえばいい」

「だれが、養ってくれるっていうんだよ。私は学校に来るためにやるべきことをやってるだけだぞ」

 少し考えてから、委員長は真面目な顔で「私が養ってあげます」という。

「嫌だいやだ。お前みたいなうるさい人間に養われていいことなんてない」

 きっと髪を梳かせとかその辺で寝るなとかいうだろと言うと、真面目な顔で

「いえいえ、髪は梳いてあげますし、膝枕してあげますよ」

という。

「嫌なやつだよなお前は」

 委員長はいつも馬鹿にする。それでも心配してくれる人間というものがあまりいないユイには、嬉しいことだった。だから、余計自分を馬鹿にしたように殊更丁寧に喋る委員長シリウスに反抗してしまうのだ。

「昨日は、何を作ったんですか?」

 ユイは毎日一品だけ料理をつくることが許されている。

「トマトのスープだよ。ベーコンにたまねぎ、バジルで味付けした」

 パンと一緒に食べたら凄く美味しかった。
 昨日行った出前の話しをすると、シリウスは楽しそうに話を聞いてくれる。ユイはそんな時間がとても幸せで、やはり学校はいいところだと思うのだった。

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感想など
懸命に一人で生活しよう頑張るユイに好感が持てます。
シリウスとくっついちゃばいいのに! 笑
トマトスープ美味しそうですね。バジルと玉葱ってすごく合うと思います!
きよにゃ: 2018.06/13(Wed) 20:49 Edit
Re:感想など
ありがとうございます。昔書いたやつ……(笑)。止まっているので続けたいなと思うのですが、表示がなぁ……。
2018/06/13(Wed) 20:52

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東院 さち
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