忍者ブログ

トロット

小説を書いています。BL、NL、ファンタジー系が多いです。少しずつアップしていけたらなと思っています。
2024
05,04

«[PR]»

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2018
06,13

ノロノロ運転です。読んでくださってありがとうございます。

「坊主、リム姐さんは部屋にいるぞ」

 ユイが出前をもって百合の館と呼ばれる娼館に行くと、裏門の入り口でガードの男にそう言われた。

「坊主じゃね~っていってるだろ!」

 とユイが怒鳴っても男は、「もう少しでかくならんとな、あっちもな」ガハハと下非たジョークでユイを笑い飛ばすだけだ。

「なるか!」

 ユイはいつものように返して館に入っていく。

 館の中は百合といわれるだけあって、あちこちに百合の花がかざっている。いつもここに入ると一度くしゃみがでる。ユイは鼻が利きすぎるのだそうだ。

 三階の目的の部屋の前に立ち、コンコンとノックすると、軽やかな声が「どうぞ」と返事をした。

 部屋の中にいたのは美しい女だ。見た目は、きつい瞳に高い鼻、魅惑の唇と豪華な金色の巻き毛、世の男はその女の前に膝をつき、一夜の夢を懇願するという。

「リム姐さん。お待たせ。今日は、姐さんの好きなジャガイモのポタージュを作ってきたよ」

 毎日一品だけ作れるユイのスープを毎週火曜日だけ楽しみにしてくれているリムに食べてもらおうと、ユイが一生懸命つくったものだ。

 大輪の花がほころぶように、リムは笑う。

「ユイ、可愛い子。嬉しいわ」

 きっとユイが男なら、その胸に抱き潰されて喜ぶのだろうなと思う。

「ね、姐さん……くるし……」

 苦しむユイを鏡の前に座らせて、そのぼさぼさになってる髪を梳く。

「姐さん、無駄だよ」

 ユイは身だしなみとかが気にならない。食堂に勤めてるから清潔にするようにガルムに言われているから風呂には入るが、髪形とかはどうでも良かった。

「ユイ、もう、貴方はこんなに可愛いのに」

 チュッと頬にキスをされて、ユイは笑った。

「姐さん、シリウスと似てる」

 ユイがそういうと、目を少し眇めて、リムはユイを見つめる。

「こんなことをするの? シリウスってお友達っていってたわよね? ユイのこと好きなの?」

 母親のような顔でリムが聞く。まだ二十歳をいくらか過ぎたくらいなのに。

「シリウスは私のことを犬か猫と思ってるんだよ」

 ユイが真面目にそう答えると、リムは少し遠くを見つめて、「不憫な子ね……」と呟いた。意味がわからなくて首をかしげると、気にしなくていいといって、ユイが運んだ食事を食べ始める。

 リムとはユイが父親を探して街を彷徨っていたときに出会った。

 まだあの時はユイは女の子のようで、お客に連れられて食事に出ていたリムが助けてくれなければ、ユイは売り飛ばされていたのだと思う。性質の悪い男達に囲まれていたのをリムの常連のジンという男が追い払ってくれた。二人はまだ十歳にもなっていないユイを心配してくれて、ご飯を食べさせてくれた。

「お父さんの行方はやはり知れないの?」

 食堂で働くようになったユイがもう一度リムに出会ったのは、出前に来たときだ。その頃にはもう今のように男の子のようになっていたから、リムは最初気付かなかった。

「もう5年だからな、半分以上諦めてる……」

 ユイは空のような青い瞳でリムを見つめた。声にも諦めに似たものがあった。

「私ね、身請けされることになったのよ。ふふ、こんな所にいる娼婦が、明るい場所に戻れるなんて、思ってもみなかった……」

「ジン様?」

 常連の男を思い浮かべて、そう聞くと、リムは違うと頭を振った。

「違うわ。あの人じゃないの。商家の方でね、サイド様というの。いい方よ」

 ユイは驚いて、リムの顔を覗きこんだ。同じ青い瞳だけど、ユイより濃い色で、いつも強い眼差しで、未来を見つめてるようだった。悲しげな色はあったけれど、リムはけして悲観はしていないようだった。

 強い人だ――とユイは瞠目する。

「リム姐さん、いつ?」

「そうね、1月先にはもういないかしら。もう少しゆっくりしていきたいけど、そんなわけにもいかないし」

 リムは仕方ないのよと笑う。

「姐さんに会えないなんて……嫌だ……」

 勝手なのはわかっている。こんなところにいて、身体を売る商売がどんなものかユイももう知っている。でも、辛いとき助けてくれて、それからずっと自分を妹のように可愛がってくれたこの綺麗な人が、いなくなるなんてユイは信じたくなかった。

「ヤダ……ッ」

 リムのドレスに縋って泣いた。

「ユイ、可愛い。泣いちゃだめ。ほら、折角の可愛い顔がだいなしよ」

 可愛いも何も鼻水だってでてるのに、リムは優しくハンカチでユイの顔を拭ってくれた。

「次の火曜日は、姐さんの好きなかぼちゃのポタージュにする」

「嬉しいわ。ふふ楽しみだわ」

 そういっていたのに、次の火曜日には、ユイが百合の館にくると、もうリムはいなかった。リムは、前の日に身請けされたのだ――。

 =====

「会えなかったのか」

 学校でいつものように眠っているとシリウスが呼びに来る。

 今は春だから、眠くて仕方がない。勉強にも身が入らないのをシリウスに咎められて、ユイはリムの話をした。

 いつもは茶化してくるシリウスが珍しくユイを慰めようとしてるようだった。お昼のお弁当のデザートはいつもは土下座しないと恵んでくれないのに、今日は何もいってないのにユイのお弁当の横に置いてくれた。シリウスは貴族だから、いいものを食べている。

 なにが美味しいのかユイのお弁当をつままれることはあるが、ユイとしてはあまり食べて欲しくない。何故なら自分の分が減ってしまうからだ。

「ううん。会えたよ!今日は学校帰りに寄るんだ。リム姐はジン様に見受けられれたんだよ」

 リム姐はジン様のことが好きなのに、ジン様の足手まといになると思って、身請け話は言わないつもりだったらしい。

 ユイは、リム姐の話を聞いて直ぐに、ジン様の働いている騎士団に出前を届けにいったのだ。

「お前勇気あるよな」

「お坊ちゃまとは違うからな」

 というと、シリウスは拳骨をユイの頭にお見舞いした。自覚があるから怒るんだと思うとユイは顔をしかめる。

「ジン様は、必死にお金を工面したよ。上司が立て替えてくれたって言ってた」

 ジン様は、リム姐のことを好きだと言っていた。愛してると言ってた。それをユイは信じた。

 報われて良かったと思う。でも一生懸命つくったかぼちゃのポタージュの恨みは忘れない。

「今日は、リム姐がアップルパイを作ってくれてるんだ」

「俺も食べたい」

 私の分が減るから嫌だといったら、シリウスは真剣に怒っていた。

「じゃあ、リムさんは、幸せなんだな」

 シリウスは、呟く。ユイの大事な人が幸せでよかったなと、本当に喜んでくれてるようなので、ユイは嬉しくてシリウスに玉子焼きをあげる。

「甘いな……」
「玉子焼きは甘いものだろ」
「玉子焼きは甘くない」

 二人の玉子焼き論は平行線を辿るのだった。

PR
Post your Comment
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

プロフィール
HN:
東院 さち
性別:
非公開
P R

Powered by Ninja.blog * TemplateDesign by TMP
忍者ブログ[PR]